対自核

セラピーの一環としての自分語り

不思議体験(中編)さらに長くなってしまったので全3回になりました

 エレベーターが到着して、扉が開き始めた。自分が乗り込めるスペースができたらすぐに乗り込むつもりだった。と、その時不思議なことが起こった。まさに乗り込もうとした瞬間、自分の前、ほとんどぶつかるくらいの距離で、横からエレベーターのメンテナンス業者に入り込まれてしまったのだ。

呆然としている間に扉は閉まっていった。呆然としたのは、一番乗りを阻止されたからであって、その時不思議なことが起こっているとはまったく思っていなかった。同僚も同じで、「何・・・今の人?」といった反応だった。一番乗りを阻止されたのは残念だったが、仕方がないので「うーん・・・ちょっと出遅れたね」とかなんとか言った記憶がある。そんな競争をしても仕方ないのだが、やられたな、くらいにしか思っていなかった。
エレベーターのメンテナンスをしているくらいだから、さすがに速いよねとか、よくわからないことを言い合っていた。

 しかし、上階に仕事に行かなくてはならないので、ボタンをすぐに押してご一緒させてもらうか、少し待ってエレベーターが空いてからもう一度エレベーターを呼んで乗り込むか、一瞬迷ったが、ほかの業者と一緒というのも、なんだかめんどくさいと思って、しばらく待つことにした。ひとりだったら違ったかもしれないが、同僚が一緒だったので少し話をして時間が経つのを待った。20秒くらい待ち、お互い「もういいよね」と言いながら、ボタンを押した。
その時はエレベーターがどの階にいるのか確認しなかった。

ボタンを押すといきなり目の前の扉が開いた。「あれっ?動いてなかったのか?」と言いながら、しかしなにかバツが悪い気がしたので、中を覗き込み「あ~すません。乗ります。」と言って入りかけた。
しかし、中には誰も乗っていなかった。

たった20秒のことなので、ひとつ上や下の階に行って戻ってきたとも考えにくく、その階に留まっていたとしか考えられなかった。その時になって初めてこれはおかしい、と思い始めた。

すでに同僚は青くなって黙り込んでいた。怖がりの同僚にトドメを刺すようで申し訳なかったが、「これは死んだ人を見たねえ。」と告げた。何か自分でも確認したくて声に出したのだと思う。

同僚はもう何も言葉を返してこなかった。