対自核

セラピーの一環としての自分語り

ワインでライフ1から100になる大物を見た話

 お酒はあまり強くない。さらに最近は飲酒の機会がめっきり減ったせいでさらに下戸になってしまった。もともと強くないから別にそんなに変わらないのだが、翌日風邪を

引いたりすることも多くなってきた。免疫力とか落ちるのかもしれない。

 

世の中にはお酒を飲んでもなんともない人も多く、一緒に飲んでても、この人どんだけ飲むんだ・・・という酒豪も普通にいる。人種が違うんだなと思ったりする。

 

 

 

 もうずいぶんと前になるが、ヨメさんと結婚前に食事に行った洋食店で、某老俳優が来店した瞬間に居合わせたことがある。その俳優は悪役として極道映画やテレビにけっこう出ていて、映画やテレビをほとんど見ない僕でも知っていた。また、料理番組にも出演していてアシのタレントに毒を吐いたりして人気があった。

 

さて、ふたりで食事をしていると、なにやら店内があわただしくなったのがわかった。

「もうすぐいらっしゃる・・・」と店員がバタつきだしたり、いそいで用意をする

様子がこちらにも伝わってきていた。

 

そして大物がやってきた。

 

どうも名古屋でテレビ番組の収録でもあった後らしく、テレビ局の関係者かマネージャーらしき人に付き添われて入店してきたその大物は、とんでもなく疲れているように見えた。

その時でもけっこうな御年だったので、仕事の後は疲れてて当然だとは思うのだが、それにしても尋常な疲労具合では無いように見えた。

 

実際、シェフというかオーナーが挨拶に出てきて”先生”を丁重におもてなしするのだが、何を語り掛けられてもほとんど反応がなく、かすかにうなずいているのがわかるくらいだった。

 

とりあえず、ワインでもいきましょう、ということになったらしく、付き添いの人が「一番いいのを頼む」みたいなことを言った気がする。その際も大物は ”大丈夫だ問題ない” 感じではまったくなかった。

別にそのさまをガン見していたわけではなく、自分たちの隣の席(わりと距離が近い)に座られたので、聞かずとも耳に入ってきてしまうのだ。

まわりのオバちゃん客からも「あれって俳優の〇〇だよね?!」みたいな、もうちょっと配慮してやれんのかと思うまったく遠慮のない話し声も聞こえてくる。

しかしそこはそれ、やはり大物は格が違うのか単に慣れているだけなのか、そういった無遠慮な視線や会話はまったく気にならないようだった。

 

しばらくして高そうなワインが運ばれてきた。「では先生、いただきましょう」と

マネだか、テレビ局の人だかわからなかったが、付き添いの人が促した。

そして大物はワインをもう末期の水かと思うようなヘロヘロの状態で口に含んだ。

 

そして我達は見てしまった。

ワインをゴクリといったとたん、背筋が伸び、いきなり声高に「このワインはなかなかいいね!」と思いっきり蘇生した光景を。

それはあたかもヒーラーに回復魔法をかけてもらい、ライフが全回復した勇者(魔法使いか?)のようだった。

これには、僕らもオバちゃんも度肝を抜かれ、店内には大物が声高に話す声のみが響いているといった状態になってしまった。

 

余談だが、大物がお手洗いに立つ際、隣に座っていた僕にぶつかり、「あ、どうもすみません」と謝られた。こちらは衝撃がいまだ抜けていない状態だったので、「あ、いえ・・・」くらいしか答えられなかったが、後日その時の模様を友人たちに、「オレ、この前、〇〇にド突かれてまったんだワ!」とか滅茶苦茶盛った話をしまくっていた。

 

 

 もうずいぶん前に故人となられた大物の、ワイン一杯でフル回復する姿は衝撃以外の何物でもなかった。

本当にお酒が好きな人はこういう人のことを言うんですねえ。