対自核

セラピーの一環としての自分語り

飼い犬の思い出 1

  物心ついた頃から家には犬がいた。

 

 最初の犬は柴犬だった。これぞ日本の正しい柴犬、といった何の変哲もない柴犬だった。

その子犬がやってきた頃、僕は小学校に上がるかどうかというくらいの年齢だった。

なぜか裏庭奥深くに犬小屋が設置されたので、これでは番犬にならないのではないか

と疑念をお子様ながらに抱いたものだったが、今考えてみると裏庭から賊が侵入してく

るのを警戒してのことだったのかもしれない。っていうかそんな狙われるような資産は

無いのだが、片田舎のことなので用心に越したことはないと判断してのことだったのだ

ろう。

彼(雄イヌだった)は、素早く走り回ったり吠えたりと、わりと正しく毎日柴犬をして

いた。夜になると犬小屋で爪を研いでるらしく、ガリガリという音が部屋に聞こえてく

る日もあった。僕もたまには散歩につれて行ってあげたりもした。

 

 しばらくして、今度は大型犬がやってくることになった。セントバーナードという

種類の犬だった。子犬のころの写真が残っているが、コロコロしていてなかなかに

かわいらしい。

そいつが我が家にやってきたとき、僕は9歳か10歳くらいだった。外国の犬ということ

くらいしか知らなかった。

やがてあんなにデカくなるとは夢にも思わなかったのだ。体重は優に80キロくらいは

あり(推定。体重を測れるようなものは何もなかった。後年、病気になって獣医に

かかるようになったときに測定はしたかもしれない)、まだガキだった僕はヤツ(雄

イヌだった)の背中にまたがり、フランダースの犬ごっこみたいなことをしてみた。

こっちを見上げる顔は明らかに迷惑そうだったので、あまりやらないことにしたが、

友達が遊びに来るとどうしても自慢したくなるので、悪いなーと思いながら数秒間乗っ

たりしていた。ヤツからすると遊園地のパンダでもないのに本当に迷惑だったと思う。

 

 時期的には、ファーストドッグ柴犬と時期が重なっていて、よくケンカをするので、

興奮したセント君をなだめようとした母親が巻き込まれ、数針縫うという惨劇も数回起

こった記憶がある。やはり破壊力は凄いものがあった。

ある日、雷が怖かったのか脱走してしまい、走ってきた車とぶつかったこともあった。

犬は無傷だった。耐久力も高かったようだ。車の運転手は半分泣いていた。

傷がついた車の修理代を出したのかとか、犬を獣医に診せたのかどうかといった細かい

ことはまったく覚えていない。そのエピソードも弟から聞いたので少し盛られているか

もしれない。

 

 

 やがて柴犬1号もトシをとり、お別れの時がやってきた。最期の瞬間、目が合った気

がした。10数年生きたから天命を全うしたのだろうという思いがあったせいか、特に悲

しくはなかった。僕が看取ってあげられた唯一の犬だった。

あんなにいつもケンカしていたセント君もその日はやたらとおとなしかった。

やはり犬でも分かるものなのかな・・・とぼんやり考えていた。

 

 大型犬は頭が良いとよく聞くがやはりセント君はけっこうなキレ者だった。

勝手に玄関の引き戸を開けて裏庭に出て行ったりとか、わりと自由に行動していた。

ガタイがデカすぎて犬小屋など無いため、裏庭に放し飼いにしてあり、夜には家の中に

入れていた。夕方遅くになると、玄関の土間に毛布を敷いてベッドをつくり寝床を作っ

てあげるのだ。そこで寝て、朝になると裏庭にご出勤というわけなのだ。

僕はもう中学生になっていたので、夕方のルーティーンは自分の仕事になっていた。

しかし、パワーがダンチなため、散歩は父親が行っていた。僕はまだまだ線が細かった

ため、どちらが散歩されているのか分からないような状態になってしまうのだった。

 

 

 セント君も寄る年波には勝てずお別れの時はやはりやってきた。高校から帰ると家族

が逝ってしまった犬を囲んでいた。数日前から危ないと聞いていたため、そうか、旅立

ったか・・・。と悲しかったが友達が一緒だったので平常心でバンドの練習なんかして

いた。その日のギターのトーンは特に物悲しいもの・・・でもなくいつもどおり下手な

だけだった。ただ、ずっとセント君のことを考えていたためか譜面が頭に入らず間違え

まくっていた。

逝ってしまう前、病気で患部が痛いだろうに、木製の靴箱を噛んで唸らないように

ガマンしている様子は立派だった。しかし、とても正視に耐えられるものではなかっ

た。早く楽になって欲しいとさえ思った。

その様子を見て、いろいろな出来事を共有した母親は泣いていた。

 

立派な葬式を出してあげようということになった。ペット専用の葬儀屋に頼み、

霊柩車に乗せてもらった。去っていく姿を見て、やっと楽になれたんだなと思った・・・。

 

 

 

長くなったので続きは次にします。まだ2匹いるのだ。