お題「これまで生きてきて「死ぬかと思った」瞬間はありますか?身体的なものでも精神的なものでも」
若かりし頃の話なんですが。
その日は三重の山奥のゴルフ場が仕事場だった。
時期は真冬だったが、わりと暖冬続きで雪が降ったり、路面が凍結したりといった
心配はない日々が続いていた。ただし名古屋市内では・・・なんだけど。
朝に会社を出発して、三重のかなり山奥のほうに差し掛かったのが11時すぎくらい。
けっこうな上り坂が続いたりする険しい山道を進んでいくのだが、乗っていたクルマ
が軽バンのわりに4駆だったりして、弁当食べて13時から仕事っていうスケジュールに
はなんら問題は無いように思われた。
とんでもなく急な上り坂を登り切って下り坂に入った瞬間、目にしたのはガッチガチ
に凍結した下り坂だった。
一瞬、「えっ?!」と思ったが、当然、停車できるわけもなくそのまま車は氷上へと
突っ込んでいった。
特に何も操作はしなかったのだが、車はゆ~っくりゆ~っくりと回転し始めた。
ゆっくりと回転しながら、道路外に向かって進んでいく。やたらと背の低い、
心もとないガードレールが迫るのが見えた。
その先は、とんでもなく深い渓谷で、どれくらいの深さなのかまったく分からなかった
が、峠の頂上にいることは感じていたので、相当な高低差だということだけは理解
できた。
ゆっくりと回転しながらだったので、いろいろと考えることができるのがとんでもなく
恐怖だった。
このままガードレールを突き破って転落したらぜったいに助からないことや、
「仕事に遅れちゃうなあ」とか(落ちたら仕事どころじゃないのだが)いろいろ
と考える時間があるということは、かなり怖い。
僕は実は2台廃車にしてるくらいなので、事故(自爆がほとんどなんですけど)経験は
普通の人より多い方だと思うのだが、わりといつも冷静だったりする。
しかしその時だけは、本当に心の奥から「助けてくれ~!!」って声が出た。
叫んでいたと思う。たぶんここで誰にも知られることなく死ぬだろうと思ったから。
そして車は道路から外れてガードレールに向かって突っ込んで・・・とはならずに、
なぜかそこだけ立派な歩道ができていたため、タイヤが縁石に激突してタイヤが一本
パンクしただけという奇跡のような状況になっていることに、放心状態から覚めると
気が付いた。そこからいきなり立派な縁石が始まっていたためどうやら助かったと。
車内はめちゃくちゃになっていて、大切な弁当(新婚の愛妻弁当なのだ)も半壊して
いたが怪我もなく、カラダはなんともなかった。
タイヤ交換をしようと試みたが、衝撃で足回りが変形していて、ナットは外れたの
だが、抜けない。「アクセルを踏んで無理やり回せば外れるんじゃね?」と、
けっこう無茶苦茶なことを試したみたが、後輪だったので動かない。アカンかな・・・
とも思ったが、「よく考えたらこの車、4駆だったわ」ってことに気づき、モードを
4駆状態にして、もう一度アクセルを踏んでみたところ、スパーンと外れて、今度は
反対側の渓谷のほうへ転がっていったので、あわてて追いかけて確保、スペアタイヤ
に交換した。
しかし、現場はとんでもなく山奥のため、携帯電話(当時はアナログでした)は
まったく通じなく、1キロくらい歩いて探してみたが、当然公衆電話などあるわけも
なく、会社や仕事先に連絡できない。
うわあ困った!と思った瞬間に、いきなり軽トラが現れたので、事情を説明して、
その人の勤めている現場事務所まで連れていってもらい、会社から仕事先である
ゴルフ場に連絡をしてもらった。
さっきまで死を覚悟するような事故だったにもかかわらず、なぜか自走できるという
状態で、弁当を食べる気にも当然ならなかったので、そのままゴルフ場に向かった。
すると、定時に到着してしまうという、なにかもうよくわからないことになってしまっていた。
ゴルフ場の担当者からは「あれ?事故して今日は来られないんじゃなかったの?!」と
言われたが、「まあおかげ様でなんとか・・・」みたいなことを言ってそのまま仕事を
して、その後会社まで普通に高速道路走って帰っていった。
いろいろな条件が重なって、なんとか時間に間に合い、仕事先に迷惑もかけずに
すんだ。わりと奇跡じゃね?と仕事をしながら考えていた。
ご先祖様には全力でお礼を心の中でずっと言っていた。